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Learning Design 2019年01月刊

特集1│HR TREND KEYWORD 2019│テクノロジー│EdTech EdTechで大人も子どもも「ワクワク」した学びを

EdTechを活用した創造的な課題発見・解決力の育成について検討する経済産業省の有識者会議「『未来の教室』とEdTech研究会」。その座長を務める津田塾大学総合政策学部教授の森田朗氏に、EdTechが創り出す未来について話を聞いた。

Profile
森田 朗(もりた あきら)氏
津田塾大学 総合政策学部 総合政策学科 教授

1951年兵庫県生まれ。東京大学法学部卒業。行政学、公共政策の研究者として、東京大学大学院法学政治学研究科教授、東京大学公共政策大学院教授、同大学院院長、総長特任補佐、東京大学政策ビジョン研究センター長、学習院大学法学部教授などを歴任。東京大学名誉教授、前厚生労働省中央社会保険医療協議会会長。2014年より国立社会保障・人口問題研究所長に就任。2017年4月、津田塾大学の総合政策学科新設にともない教授就任。

[取材・文]=谷口梨花

EdTech で教育にイノベーションを

昨今、世界中でEdTech による教育イノベーションが進んでいる。アメリカや中国、イスラエル、シンガポールといったEdTech 先進国からはかなり遅れているものの、日本でもEdTechの活用が進みつつある。その背景には、第4次産業革命が進み、予測が難しくなるなか、教育も変わらなければならないという課題意識がある。より創造的で協働的、かつ個別最適なものが求められるこれからの教育において、EdTech は重要な役割を果たすだろう。

それではEdTech でどのように教育が変わるのか、3 点紹介したい。1 点目は、学習の「個別最適化」である。これまでの教育は「小3の3学期に算数のこの単元を学ぶ」というように学習指導要領に基づいて一斉に教えるのが主流だった。しかし、このような教育では落ちこぼれを生みやすいし、個々の才能や強みも伸ばしにくい。

しかし、ビッグデータやAIを活用すれば、一人ひとりの理解度や興味関心に応じた教育ができるようになる。たとえば、ある生徒が「どの単元が理解できていないか」を分析し、必要な単元から復習できるようになる。これまではベテランの先生が長年の経験を生かして行っていたことが、AI のアルゴリズムで高い精度で実現できるようになるのである。

2点目が「学びの自由化」だ。学びが個別最適化されると、ある生徒は短時間で単元をクリアするが、ある生徒は倍の時間をかけて学ぶということも起こりうる。また、オンライン学習によって先生は遠く離れた海外にいながら教えることも可能になるだろう。そうなると授業時間数や単位、教室といった概念も薄れていくのではないだろうか。

3点目は「先生の役割の多様化」である。現在の一斉授業では、決められた時間内に生徒全員が同じレベルに到達できるように教えることが先生の主な役割である。しかし学習の個別最適化が進めば、先生は生徒の問いを引き出したり、生徒のペースで学びを深めるのをサポートしたりする役割を担うようになるだろう。

企業におけるEdTech の可能性

ここまで述べてきたのは主に学校現場の話だが、企業にも同じことが言えるのではないか。市場環境や働き方が大きく変化するなか、企業は社員一人ひとりの特性に応じた育成やキャリア設計をしていくことが、今後ますます求められるだろう。そのためにEdTech の活用可能性は大きい。

たとえば、日本の労働生産性は先進7カ国でも最下位が続いているが、テクノロジーを活用すれば社員一人ひとりの強みや適性に応じた仕事をマッチングし、生産性を上げることが可能になる。また、研修もより個別最適化したものにできるだろう。これまで人事担当者の勘や経験に頼っていたものが、より効果的、効率的に行えるようになるのである。

EdTechといえば、どうしてもAI やビッグデータといったテクノロジーやタブレットなどのIT機器に目が向きがちだが、テクノロジーはあくまでツールである。重要なのはそれらを活用してどのような未来を描くか。個別最適化によって思いがけないきっかけから学びが深まったり、オンライン学習によって世界中のコンテンツや先生から自由に選んで学ぶことができるようになったりするだろう。それは、いうなれば「ワクワク」との出会いである。「ワクワク」に子どもも大人もない。EdTechによる教育イノベーションで、誰もがどんな環境でも「ワクワク」に出会える機会が増えると考えると、未来が楽しみになってこないだろうか。